変形労働時間制運用の「よくある間違い」を考える
- 2022.12.27 コラム
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名古屋地裁の判決
日本マクドナルドでの解雇無効を争った裁判において、全国の店舗社員に適用されている「変形労働時間制」を裁判所が無効と判断した事件がありました(2022年10月26日)。元社員は1ヶ月単位の変形労働時間制により働いていましたが、就業規則に定めのない勤務シフトが労働基準法の要件を満たしていないとして変形労働時間制自体を無効とし、原則通りの計算による未払い賃金約61万円の支払いを命じました。本件において解雇は有効と判断されましたが、大企業の就業規則に定められた変形労働時間制が否定されたことは、ある意味解雇の効力以上にインパクトのある判決と言えるかもしれません。(上記は地裁での判決になりますので、高裁や最高裁で争われた場合、判決内容が変わる可能性があります。)
法律上の成立要件
1ヶ月単位の変形労働時間制の場合、シフト表や会社カレンダーなどで、対象期間、起算日を明らかにした上で対象期間すべての労働日ごとの労働時間をあらかじめ具体的に定める必要があります。その際、対象期間を平均して、1週間あたりの労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えないよう設定しなければなりません。この要件を具体的に紐解くと、以下の要素がすべて特定されていることが必要になります。
①対象期間と起算日 ②日ごと、部署や個人ごとの始業時刻・終業時刻・休憩時間 ③部署や個人ごとの休日 |
今回の事件では何が問題だったか
日本マクドナルド事件においては、判決で「就業規則で定めていない店舗独自の勤務シフトは、労働基準法の要件を満たしていない」としており、直営店共通の就業規則等に「具体的なシフトが書かれていないこと」が問題となりました。当然会社側は「全国のマクドナルドに共通するシフトをすべて就業規則上に記載することは困難」との主張をしたようですが、厳格に法律を根拠に否定されました。
なお、なぜ未払い賃金が発生したかというと、変形労働時間制が無効となったことで「1日8時間、週40時間」の法定労働時間が適用され、1日8時間や週40時間を超える労働分の割増賃金支払い義務が発生したことによります。
気をつけるべき誤解
1ヶ月単位変形労働時間制を運用する際に起こりがちな誤解として、以下のようなものが挙げられます。
【 誤解1:シフトは1ヶ月分決めず、前後半などに分けて決めても良い 】
対象期間を1ヶ月とした場合、開始時期までに対象期間の全てにおいて労働日、始業終業の時刻を決めなければなりません。例えば「2週間ずつシフトを決める」などの運用は正しい運用ではありません。
【 誤解2:月間総労働時間さえ変えなければ、シフト変更が自由にできる 】
1ヶ月単位の変形労働時間制において、原則として一度決めた労働日、労働時間を変更することはできません。ただし、業務上の都合でやむを得ず始業・終業ともに繰上げ(繰下げ)をする(労働時間が変わらない)などの変更は認められます。
【 誤解3:残業した分を、別日の早退などと相殺して調整ができる 】
別日に早退したからといって残業をした事実がなくなるわけではありません。また、誤解2と同様、会社や労働者が任意に労働時間を変更することはできません。
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