着替えの時間と労働時間の関係
- 2024.01.31 コラム
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はじめに
家具小売大手の「イケア・ジャパン」が、従業員の着替え時間に対して賃金を支払っていなかったことが報道され、話題になりました。
掃除や朝礼・終礼などと同様に、着替え時間が労働時間に当たるか否かについての争点の一つになる「着替え時間」について、イケアの事件も参考にしながら重要なポイントを解説します。
イケアで起きたこと
これまでイケア・ジャパンでは、開業以来会社指定の制服に着替えて勤務することが定められていましたが、この「着替え時間」は労働時間に含まれていませんでした。
イケアの場合シャツ、パンツ、靴が会社から指定されていたようです。
2023年9月以降は着替え時間を出退勤時各5分とし、合計10分間を1日の労働時間に含めるとしています。
着替え時間の金銭的影響
この10月以降の最低賃金全国加重平均額である「時給1,004円」をもとに、今回の変更による年間の金銭的な影響を試算すると以下のようになります。
時給1,004円×1日10分×月20日×12ヶ月=40,160円
1日10分といえども年間で見ると影響は少なくありません。
別の言い方をすると、着替え時間に対して賃金を支払っていない会社の従業員が100人いた場合、年間約400万円の「未払い賃金リスク」を抱えていることになります。
労働時間となるか否かの判断基準
着替え時間は常に労働時間となるわけではなく、「使用者(=会社)の指揮命令下にあると言えるか否か」で判断されます。
着替え時間が労働時間とみなされる可能性を高める要素として以下のものがあります。
- 就業規則等で制服着用を義務付けている
- 制服の着用ルールに従わない場合に罰則が設けられている
- 安全面や衛生面から着替えを必要としている
- 会社が着替え場所を指定している
- 通勤時に制服の着用を禁止している
なお、労働者側の都合で着替える場合(運動着で通勤してスーツに着替える場合など)は労働時間に当たらないでしょう。
ルール変更のタイミング
イケア・ジャパンは、「着替え時間に関しては、関連法令に明文の規定もなく、判例上の基準も曖昧な部分があることから、実務上見解の分かれる点について不明確性をなくし、従業員有利の方向で明確な取扱いを設定するものとしました」との見解を示しており、過去に遡っての支払いをしない意向のようですが、本来は過去に遡及して支払うリスクをはらんでいます。
「営業前の掃除時間」「着替え時間」「朝礼時間」などは、しばしば未払い賃金請求訴訟の争点になるものであり、進め方によっては過去の未払い賃金問題にもなりかねないため、ルール変更のタイミングは慎重に検討すべきでしょう。
タイムカード打刻について
イケア・ジャパンは「着替える前にタイムカード打刻をする」のではなく、「一律に1日10分を加算する」というルールを適用したようですが、着替え時間を10分と明確にしたことは管理面でも労働者側の納得度の点でも良い妥協点の一つと言えるかもしれません。
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