美容室の労務管理
- 2021.08.26 コラム
そのため雇用する従業員の数も増加することになりますが、労働時間の管理や社会保険手続きを怠り、
労使間トラブルが急増しており、今まで手付かずだった労務管理の必要性が高まってきています。
ここ数年、美容師国家試験の合格者は年々減少しています。法人化して多店舗展開をしたい
経営者が増加している一方で、人材確保が難しくなってきているのが現状です。
また、美容業界は、他の業界に比べて人材の流動性の高い業界であるといわれています。
技術があればどこの美容室でもやっていけるため、より高条件の職場があれば容易に
転職してしまうのです。
そのため、人材確保の努力を怠った美容室は、優秀なスタイリストを失い、それどころか若手アシスタントまでも失う結果となりかねません。
これからの美容業界の競争を勝ち抜くには、優秀な人材を確保する努力が必要なのです。
新卒採用と中途採用のポイント
(1)新卒採用
メリット
一から教育することができ、店の雰囲気にあった人材を育てることができる。
デメリット
教育の手間がかかる
技術が未熟で即戦力にはならない
採用方法
毎年4月~5月頃 美容学校へ求人票を送付
7月頃 見学会を開催
8~11月頃 面接後、内定者の決定
ポイント
新卒採用の場合は、親が介入してくるケースも多数。労働条件をきちんと明示できるようにしておき、
過酷な労働環境ではないと伝えることが重要。また、保険への加入を気にされるご両親も多く、
最低限労働保険には加入し、さらに社会保険に加入していれば大きなアピールポイントになります。
教育や研修体制がしっかりしていて、安定して働ける環境と思ってもらえるようにアピールしていかなければ、美容学校の卒業者数が減少している今日では新卒採用がますます厳しい状況となってしまうでしょう。
(2)中途採用
メリット
経験豊富で即戦力として活躍してくれる
デメリット
職場の同僚とうまくやっていけない
店の雰囲気に馴染まない(個性や技術を強調したがる)
採用方法
美容業界向けや一般の求人誌に求人広告を掲載
ポイント
雇用契約か面貸し契約(業務委託契約)かの判断が必要。
また、スタイリストが欲しいのか、アシスタントやフロントスタッフ、事務スタッフが欲しいのか明確にしておくこと。
美容室にとって理想的な人材バランスは、スタイリスト:アシスタントの割合が1:2くらいと言われています。
しかし前述のように若手美容師の数が減少傾向にあり、アシスタント世代は人材不足であるため、
求人誌やハローワークをうまく利用して、まずは応募してくれる環境を整えることが重要となるでしょう。
また、中途の場合は、後々のトラブルとならないように腱鞘炎や腰痛、首痛等がないか、
さらに美容師という職業柄、以外に多い膀胱炎も長期療養の原因になるかもしれませんので、
採用前の面接の時点で必ず既往症の確認を取り、採用時には健康状態に関する告知書を
提出してもらうようにすると良いでしょう。
美容サロン経営者様からのよくある質問
労働保険と社会保険には加入しないといけないのですか?
労働保険は、経営形態に関わらず、労働者を雇った時点で法的に加入義務がありますが、
社会保険の場合は、法人であれば加入義務がありますが、個人経営であれば義務ではありません。
「面貸し」・「鏡貸し」にはどんな問題点がありますか?
美容室のおける業務委託契約において何が問題かというと、業務委託契約でありながら、
実態は指揮命令に従いながら美容室で勤務しているという労働者性が認められるケースです。
美容室において業務委託契約であるものの、労働者性が認められるケースの代表例としては、
労働時間を管理していたり、店内での業務に関し、具体的な指示をしている場合です。
労働者性が認められるような実態が存在していれば、それは業務委託契約ではありません。
業務委託の違法性を指摘されれば、過去に遡って雇用保険に加入させられたり、
過去2年分の残業代の支払いが必要になってくることもあります。
練習の時間も労働時間になりますか?
業務の一貫として、指揮命令の下で行われているのであれば労働時間となりますが、
自主的に行っているのであれば、労働時間にはあたりません。
固定残業代を払っていたつもりだったのに、未払い残業代を請求されたら?
入社時に、残業代は給与に含まれているからと口頭で伝えただけでは、固定残業代としては
認められません。
基本給と固定残業代を明確に分けて支払う必要があります。
採用の際の雇用契約書にきちんと明示していればトラブルを未然に防ぐことができます。
就業規則は必ず作らないといけないの?
労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用する事業所に対して、就業規則の作成と
労働基準監督署への届出を義務付けています。
美容室の場合、1店舗ごとが事業所となるため、各店舗のパート・アルバイトを含めた従業員が
10人以上でなければ、法律上の作成義務はないことになります。
ただし、就業規則がないとスタッフの休職や退職、解雇等さまざまなトラブルに対応できなくなる
可能性もありますし、職場のルール作りのためにも、作成しておくことをお勧めします。